「ソラ ジャケ」作品の16枚目は、George Robert の The Summit、1997年12月22日の録音です。
このジャケ写を見て、「雑居時代」というTVドラマを思い出しました。主役の石立鉄男扮するカメラマン助手がセッティングした女性グラビアの撮影現場で、川崎敬三扮する著名山岳写真家がシャターを押すというシーンが印象的なドラマでした。山岳写真というのは金にならないものとの印象を、私は強く持ちました。
それから結構な時を経て、私はカメラ好きになったのですが、スタジオでの女性撮影に興味を持った時期はありましたが、山岳写真に興味を持ったことはありませんでした。
さて本題のジョルジュ・ロベルト、或いはジョージ・ロバーツの本作品のジャケは典型的な山岳写真です。Joan Robert なる方が撮影したものですが、この現場にたどり着くまでが、大変なことなのでしょう。そこには険しい雪山の頂上と、見事な青空が広がっています。この青空はデジタル補正されているのでしょうが、頂上を見事に引き立てています。
本作品はジョージ・ロバーツとフィル・ウッズの共演作品であり、「今日の1枚」では2006年5月14日に取り上げました。「普通に良い作品といったとこでしょう。別に、人に推薦したくなるような内容ではありません」などと、私は冷たい感想を述べていました。この時代に勢い良かったアルト・サックス奏者、そして重鎮のアルト・サックス奏者の共演作品ですので、ジャケ写のように決まった瞬間があるはずです。その瞬間を楽しみにして、今回はつまみ食いします。
【エピソード、本セッション】
各資料を見ますと、このセッションでの演奏曲については、様々な情報がある。この「今日のコルトレーン」では、公式発表の資料16とそれを基にした資料07を正として、セッションリストとしている。「Equinox」と「The Night Has A Thousand Eyes」はこの日に演奏されたが、テープ消失により、日の目を見なかったのである。
また「My Favorite Things」については資料07には興味深い記述があるが、アトランティックの公式記録には無い情報なので、一つの話として別掲することにする。
19600708-01
Focus On Sanity (Ornette Coleman)
(12分13秒)
【この曲、この演奏】
オーネット・コールマンがドン・チェリーと「The Shape Of Jazz To Come」で演奏した曲であります。
資料07によればこの曲名について、アトランティックの公式録音記録には「Near and Fair」となっているとのことです。
オーネット流のブルース曲を、ドン・チェリーは緊張感高い演奏を披露しており、ベースと素晴らしい空間を作り出しています。このチェリーとの比較でここでのコルトレーンを語るならば、資料09にある「非常に貧弱なコルトレーン」とのコメントも、全否定できないものであります。コルトレーンの激しい叫びが聞こえるようだとの感想は、私だけなのでしょうか。
【この曲、この演奏】
ドン・チェリーとの二日間のセッションは、チェリー作の曲から始まりました。
資料07によりますと、アトランティックの正式録音記録によれば、この曲名は「Cherryco」と一緒に「Untitled Opus #1」とも書かれているとのことです。また「Cherryco」は有名曲の「Cherokee」に引っ掛けて付けられた曲名であり、「Cherokee」との音楽上の関連性はないとのことです。
これから想像すると、この録音の時点では曲名までは考えてなく「Untitled Opus #1」としたけれど、冗談でチェリーの名前に引っ掛けて「Cherryco」と誰かが言ったのでしょう。
コルロレーンのこの曲の演奏記録は、本セッションだけです。
曲はまさにコールマン - チェリーの世界であり、その演奏は自信に満ち覇気のあるチェリーが光っています。問題となるのはコルトレーンの演奏で、空回りしている、と感じる方が多いのも事実であります。私には、今後の進むべき道、そして自分のバンドの構想、そんな考えをここでの演奏にぶつけているコルトレーンを感じます。
【エピソード、本セッション、ドン・チェリー】
アトランティックの正式録音記録には、このセッションはドン・チェリーのリーダー・セッションとあったとのことだ。(資料07)
1950年台半ばからプロ活動を始めたドン・チェリーは、1950年台後半からオーネット・コールマンのバンドで、ジャズ界に重要な作品に参加していた。「Something Else!!!!」「Tomorrow Is The Question!」「The Shape Of Jazz To Come」「Change Of The Century」などである。これらの作品を聴いていたコルトレーンが、ドン・チェリーに興味を持ったのは当然のことと言えよう。
私見だが、ドン・チェリーとの共演はコルトレーンの強い希望によって実現できたのだと思う。
さてこのセッションについて資料09には、厳しい見解が書かれている。
オーネット・コールマンこそ、コルトレーンにとって常に気になって仕方ない存在であった。特にレギュラー・グループ結成に難航していたこの時期、そのスポンティ二アスな革新性は、まさに羨望の的であっただろう。しかし、実際オーネット・バンドをコンセプトごと借りて来た本作は、例えばマイルスの偉大なコーディネーターぶりとは対極の苦悩の涯てに得た自前の言葉でしか語り得ない、コルトレーンの哀しい性を晒け出している。特筆すべき点は、後年、もう一つの顔となったソプラノ・サックスの初使用ということのみだ。(資料09より全文引用)
このコメントが指摘する点を少し角度を変えてみれば、このセッションの重要性が浮かび上がってくるのではと、私は考えている。
コルトレーンのドン・チェリーとの共演は、7月8日との二日間に渡ったこのセッションだけである。
【この曲、この演奏】
「Some Other Blues」同様に11月24日の演奏はテープ紛失、この日に再収録となりました。この曲をコルトレーンは1961年8月7日に、ドルフィー入りクインテットでデトロイトのライブで取り上げた記録が、資料06にあります。しかしながら私家録音もなく、従ってこの曲のライブ演奏は聴く事ができません。
不思議な魅力に包まれる、曲と演奏です。資料09にはこの曲について、「モーダルなパターンと典型的コルトレーン・チェンジのサビを持つ、この時期らしい曲」との解説があります。私にはインパルス時代のコルトレーンの世界を感じさせるものが、この曲と演奏にあると思いました。どちらかと言えば淡々と吹くコルトレーンですが、魅力的な演奏でした。
【エピソード、本セッション】
アルバム「コルトレーン・サウンド」用の本セッションだが、11月24日と同メンバーであり、同一セッションが二日間行われたとの内容である。先の「ジャイアント・ステップス」のセッションも二日間であり、これ以降のアトランティックでのレコーディングでは、二日間セッションが主となっていく。プレスティッジ時代には考えられなかった恵まれた環境であった。
さて本セッションの特徴を三つあげておく。
一つ目は11月24日の録音でテープ紛失となった2曲、「Some Other Blues」と「Fifth House」をこの日に再び吹き込んだことである。
二つ目は、この日のセッションでも、「The Night Has A Thousand Eyes」と「Equinox」の2曲のテープが紛失となった。この2曲も、後日に再演されている。
最後は「Naima」であるが、これは別項で取り上げている。
19591124-04
I'll Wait And Pray (alternate take) (Jerry Valentine & George Treadwell)
(3分27秒)
【この曲、この演奏】
続けてこの珍しい曲を演奏しています。資料09によれば、作者の一人の George Treadwell は、かつてのサラ・ヴォーンの旦那さんとのことです。ただしそれ以上の情報は、各資料やネットから得られませんでした。
演奏時間も構成も前テイクとほぼ同じですが、コルトレーンがテーマ演奏で違う試みをしています。しかしながら前テイクの方がベターとの判断で、本テイクは1975年に「Alternate Takes」として世に出ました。
【エピソード、ウィントン・ケリー】
アトランティックでのコルトレーンが選んだピアニストは、シダー・ウォルトン、トミー・フラナガンに続くのがウィントン・ケリーだった。
資料06によれば、コルトレーンとケリーの共演歴は21回あるが、コルトレーンのリーダー・セッションとなると、スタジオ録音ではこの日と12月2日だけである。この年にバードランドでのライブでも共演しているが、音源を含めて詳しい情報は残っていない。
その他の18回は、マイルス・バンドが16回となる。3回はスタジオ録音であり、「Kind Of Blue 」と「My Prince Will Come」という名盤で世に出ている。残りの15回はライブであり、1960年のマイルス・バンド欧州ツアーがその中心となり、非公式盤としていくつかの音源は世に出ている。
さて残り2回は、スタジオ録音である。1957年のBNでのグリフィンのリーダー・セッション、そして1959年のキャノンボール・アダレイのシカゴでの録音であ理、どちらも人気作品として今日でもジャズファンに愛されている。
19591124-03
I'll Wait And Pray (Jerry Valentine & George Treadwell)
(3分34秒)
【この曲、この演奏】
この曲を検索しますと、ここでの演奏と、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの1990年に製作したアルバム「One For All」がヒットします。資料14には掲載されておらず、知る人ぞ知る曲なのでしょう。作者の Jerry Valentine はジャズ・トロンボーン奏者、George Treadwell は ジャズ・トランペッターが、検索でヒットしました。
コルトレーンのこの曲の演奏記録は、このセッションだけです。
さて演奏ですが、美しいバラッド、いくつもの場面が目の前に広がるバラッド、この曲をコルトレーンは曲の持つ表情の内面を映し出しような演奏をしています。コルトレーンのバラッド演奏の凄みに接することができる演奏となっています。
【エピソード、本セッション】
本セッションは、コルトレーンのアトランティックでの5度目のセッションであり、12月2日にも同一メンバーで録音を行っている。このセッションから7曲がアルバム「コルトレーン・ジャズ」に収録され、1曲が「ジャイアント・ステップス」に収録された。
冒頭に録音されたコルトレーン作の2曲「Fifth House」と「Some Other Blues」は、資料07によれば「Tapes are missing and presumed lost」と記載されている。この2曲は12月2日のセッションでも演奏され、そちらは「コルトレーン・ジャズ」に収録された。